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民事保全手続

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占有移転禁止の仮処分とは

内容証明郵便に記載した支払期限が過ぎても賃借人から滞納家賃全額の支払いがなされず、又は連絡すらない場合、明け渡し(及び滞納賃料支払い)の訴訟を提起することになりますが、その前に、裁判所に対して占有移転禁止の仮処分の申立をすることが必要な場合もあります。
この「占有移転禁止の仮処分」とは、係争物件を直接占有している者またはその者から新たに占有を取得した第三者に対して、勝訴判決に基づいて後々確実に強制執行を行うことができるよう、現在の占有者の占有を暫定的に固定する保全手続のことです。詳細については以下のとおりです。
なお、以下では「債権者」「債務者」という単語が出てきますが、これは保全手続き特有の言い回しで、訴訟における「原告」「被告」に対応するものです。

保全しないとどうなるのか

賃借人が賃料を支払わないまま何ヶ月も建物(部屋)を占有しており、その賃借人に対して明渡し請求訴訟を提起し勝訴判決を得た場合、賃借人が終始占有を継続していれば、この勝訴判決を債務名義として、賃借人に対して、強制執行を行うことができます。このように、特に保全手続を践まなくても、スムーズに強制執行により明け渡しを実現できるケースもあります。
しかし、訴訟の口頭弁論終結後に、賃貸人の気づかないうちに、占有者が変わっていることもあり得ます。そして、新たな占有者がもともとの賃借人から占有を承継したことを、賃貸人側で立証できない場合には、せっかく獲得した勝訴判決も、その効力を新たな占有者に及ぼすことができず、強制執行ができなくなってしまいます。
また、口頭弁論終結前に占有者が変わっても、賃貸人やその代理人弁護士が常に建物の占有状態を監視しているわけではありませんので、口頭弁論終結前に新たな占有者に訴訟引受の申立(民事訴訟法50条)をしないまま、被告である元の占有者(賃借人)に判決がなされることもあり、この場合も、新たな占有者に対して強制執行をすることができなくなってしまいます。
これらの場合、改めて、現在の占有者を被告にして、初めから訴訟提起をやり直さなければなりませんし、またその訴訟でも上記と同様の事態が起きると、さらに別の占有者に対して訴訟提起をしなければなりません。結局、いつまでたっても明け渡しは実現せず、無駄に時間と労力と訴訟費用ばかりがかかってしまうということにもなりかねません。これは一部のレアケースだと思われるかもしれませんが、悪質な賃借人の場合、意図的にこのような妨害行為を行うことがままあります。

占有移転禁止の仮処分の効力

そこで、このような事態を防ぐために、「占有移転禁止の仮処分」という保全手続が民事保全法に用意されてあります。
占有移転禁止の仮処分決定及びその保全執行により、現在の占有者の占有を固定し、他人への占有移転を禁止するとともに、その占有を解いて執行官に引き渡すべきことを命じ、執行官に係争物の保管をさせ、執行官に、債務者(※ここでは現占有者のこと。)が係争物の占有の移転を禁止されている旨及び執行官が係争物を保管している旨を公示させることになります。
このような保全手続を取ることで、(1)口頭弁論終結前に他人に占有移転がなされても、占有承継人に対する訴訟引受をする必要がなくなり、また(2)口頭弁論終結後に占有を取得した第三者は、当該保全執行がされたことを知って占有を開始したものと推定されるため(民事保全法62条2項)、特段の立証を要せずに、承継執行文の付与を受けた上で(民事執行法27条2項)、占有承継人に対して、強制執行を行うことができるようになります(民事保全法62条1項)。
以上のとおり、占有移転による妨害行為が予想される賃借人に対しては、占有移転禁止の仮処分を行わなければならない場合があります。

占有移転禁止の仮処分の特殊なケース ~占有者が特定できない場合~

占有移転禁止の仮処分の申立は、原則として、賃貸物件の直接占有者の氏名又は名称及び住所を記載した申立書で行わなければなりませんが、悪質なケースでは、意図的な執行妨害のために、占有者が次々と入れ替わったり、占有者の氏名等が明らかにならず、直接占有者の特定ができないため、そもそも占有移転禁止の仮処分の申立自体が頓挫してしまうことになります。
そのため、このような執行妨害事案に対して的確に対処できるようにすることを目的として平成16年4月1日に施行された「担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律」により、例外的に、直接占有者を特定しないで不動産の占有移転禁止の仮処分を発することが許容されました。
もっとも、占有者を特定しないで占有移転禁止の仮処分命令を裁判所に発令してもらうことは、あくまでも例外的な保全類型ですので、「債務者を特定することを困難とする特別の事情」(民事保全法25条の2第1項)を「証明」する必要があり(※「疎明」では足りません。)、直接占有者を特定できている通常の場合よりも発令のハードルが高くなります。実際には、相当の調査を尽くした上でもなお占有状況が非常に流動的であり、直接占有者をどうしても特定できないことを示す証拠をしっかりと準備する必要があります。

保全手続の流れ

保全手続の流れ

占有移転禁止の仮処分は、申立をすれば、書類審査だけで自動的に発令されるというわけではなく、賃貸人または代理人弁護士が、裁判官と面接をし、(1)被保全権利(明渡しを求める権利)があること、及び(2)保全の必要性(占有移転のおそれ)を疎明し、また裁判官から質問があれば、その場で説明をしたり追加資料を補充したりなど、臨機応変に対応する必要があります。
裁判所から疎明十分と判断されれば、担保金(保証金)を供託した上で、裁判所から占有移転禁止仮処分決定を発令してもらうことになります。
担保金額は、係争物件が店舗・事務所と居住用建物のいずれか、また占有移転禁止決定後の占有者を現占有者・執行官・賃貸人のいずれにするかなどによって大きく変動しますが、現占有者に占有を継続させるという通常のケースだと、当該不動産の月額賃料の1か月分~5か月分くらいが相場です。なお、担保金は、訴訟手続が終われば返還されます。
無事に裁判所から占有移転禁止の仮処分命令が発令されても、それで保全手続が完了というわけではなく、決定正本に基づいて、執行官に保全執行を申し立てる必要があります。債権者(※ここでは賃貸人のことです。)に対する仮処分命令の送達日から2週間が経過すると保全執行は許されなくなりますので(民事保全法43条2項)、執行官が多忙であることを考慮すると、仮処分命令送達後、早急に保全執行を申立て、執行官と保全執行のスケジュール調整を行う必要があります。
保全執行は、その名のとおり「保全」(占有移転禁止仮処分)を「執行」することで、具体的には、執行官とともに係争物件に赴き(※施錠されている可能性がある場合には、予め鍵屋を手配し、保全執行に同伴してもらいます。)、前記のとおり、占有が禁止されている旨及び執行官が係争物件を管理している旨が記載された紙を見やすいところに貼って、公示するという手続になります。
以上の手続きがすべて完了すれば、以後は、賃貸人側で賃貸物件の占有状態を逐一監視する必要はなくなりますので、安心して訴訟提起に集中すればよいことになります。


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